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これは月の皇が創りし惑星の伝説
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さわりさわりとその樹のようなものは動いていた。
否、自由に動くものだったものの筈なのだが、時が来たのか風に吹かれて動くだけのモノとなってしまった。
それに触れる獣がいた。
赤い鬣に、まるでガラスのような半透明な空色の瞳でそれを見つめながら触れている獣はそれがもはや己で動くことがない事を知らない。
獣は寂しそうに動かなくなってしまったそのモノに対してそのモノになってしまった樹の名前を呟いた。



*****

ウィング国の端、大国のヘルメス国の国境の近くに村がある。
その村は勇者が生まれる村と言われており、事実 そういった者が生まれてくる希少な村なのだが。
そこでまた一人、勇者として旅立とうとしていた。

「ただいま、ばあちゃん」
金色の短髪に青空のような清々しい瞳をした若者は昼食の準備をしていた叔母に対して言った。
「どうだったかい? あの噂は本当だったかい?」
そう。
今この村ではある噂がたちこめていた。
それは 魔の神殿跡で魔王を発見した という果てしなく妄想にも似た噂。
創世記にその神殿が落ちてからその場所は魔術により暗黒に包まれており、調べるにも調べられないということで有名な場所なのだ。
その魔術は 滅び落ちた魔族の遺産なのでは、とか本当は魔族は滅んでいないのでは、とか噂は噂によりどんどんと大きく膨らんでいった。
「聞いたけど数日前よりも酷い噂になってたよ。 噂って怖いよな。 どんどんと無さそうな話が膨らんでいく」
「本当にそれはないと言えるかねぇ。 まぁヒトというのはそういうもんなんだがねぇ」
ところで、と叔母は話を切り替えることにしたようだ。
「最初に行く場所を決めたのかい? ウィングかい? ヘルメスかい?」
「うーん…それも興味深いけど…」
と田舎育ちの若者はきっぱりとこういった。
「最初はその魔の神殿跡まで様子だけでも見に行こうかなと。 興味あるし」
「好奇心だけで動く気かい。 それはいいが、それだけで動くのは危険ってもんだよ。 そういう時は大きな町に行って準備をしてから行くもんだ。本当に魔王がいたとしたらどうするんだい?」
「その時は何とかなると思う!」
「… …」
呆れた孫である。
呑気なのか、好奇心なのか、それともどちらでもあるのか。
全くもって誰に似たのか。
「あんたは本当にあの馬鹿息子に似たもんだねぇ」
「それって褒め言葉?」
「いんや。 まぁ明日からはお前は自由だ。 何をやってもどんなことをしても自己責任だ。 分かってるね?」
ただ、と叔母は言葉を続ける。
「…絶対に命だけは大切にしてこの故郷に戻ってきなよ…。 あと手紙もしっかりと出すように」
「うん、分かったよ。ばあちゃん」
そう言い、その若者は明日の為の準備をし始めた。


翌日、晴天。
「良い旅立ち日和だなぁ」
とのほほんとフィリスは言った。
くるりとフィリス振り返るとフィリスの叔母がいる。
「じゃあばあちゃん行ってくる」
「気をつけなよ。 もし何かあればまた立ち寄りな!」
そんな叔母に対して、フィリスは何度も手を振った。

*****

獣は一つだけの墓を見つめていた。
手には10数本の花を積めて来たのか持っていて、それをそっと墓の前に置く。
しかし、獣にとってはそれがいつものこと。
振り返ることもなく、そのまま走り去っていった。

*****

ウィング国。
全てを温かな風で包み込み旅人を迎えると言い伝えられており、四季折々の風景を見ながら観光も出来る過ごしやすい場所で有名である。
そんな端にある村からフィリスはウィングの都市へと入ろうと考えていた。無謀にも徒歩で。
馬があれば3日で行けれるが徒歩では1週間かかる場所である。
だがその無謀を体感したいが為らしく、フィリスはこつこつと歩いていた。
初めは魔の神殿まで行こうと考えていた。
だが、その為の道具が村の道具屋だけでは十分とはいえない。
そのため、大都市に行かなければいけなくなってしまった。

そんな無謀が一人の少女との出会いのために打ち砕かれるなど、フィリスはまだ考えてすらいなかった。

街道をそって景色を見ながら歩いていくフィリス。
これなら夕方には小さな町の宿ぐらいには入っているはずだろう。
ふとそこにあった森をフィリスは見てみる。
人影が一瞬だけ見えた。
それだけではない。数体の獣の姿も見て取れる。
(誰かが魔物に襲われている!?)

「…何!? あんたたち」と少女が言ったがそんな言葉など魔物には通用さえしない。
リーダー的存在である少し巨大な獣が周囲の見方に合図をする。
恐らくは一気に少女を倒そうという考えなのだろう。
それとは裏腹に目を瞑り何かを呟く少女。
その瞬間を察して獣達は一気に少女に襲い掛かった。
「危ない!」
魔物に突撃していったフィリス。
まさか味方が入るとは思っていなかった獣達はフィリスの剣を見て、太刀打ち出来ないと考えたのかそのまま逃げていった。
「君、大丈夫かい?」
「…バッカじゃないの?あんな低レベルな魔物なんて私の魔法で倒せるわよ!」
「…は?」
「折角イライラをあの魔物たちに蹴散らそうとしてたのに」
「お…おい俺に何の感謝もないのかよっ」
「ここまできてくれたことには感謝するわっ!!じゃ」
「待て」
ぐい、とフィリスは少女の腕を掴む。
「何よ…」
「怪我してるじゃないか!」
そう言いフィリスは目を瞑り癒しの呪文を少女の腕へとかける。
「あんた、聖職者?」
「いや、基礎呪文系は全部ばあちゃんから教えてもらった」
「どこ出身?」
「エリーティア」
がばっ と少女は驚愕の顔をしながら「エリーティア!!? じゃあもしかしてあんた勇者なの!?」と叫ぶ。
「まぁ…まだ見習いみたいなもんだけど」
と恥ずかしげにぽりぽりとかくフィリスに対して少女は悪魔の微笑み(のようなものがフィリスには見えた)をした。
「じゃあ、あの噂は知ってるのよね?」
「あの噂って…魔の神殿跡のか!?」
「そそ。私、あそこに行ってみようと思ってたんだ」
「行ってみようって…あそこは魔族の封印があって中にすら入れないらしいけど」
「それデマかもしれないでしょ? そういうのってよくあるんだよねぇ…」
「でも結構有名だぞ?」
「行ったことないんでしょ? 見習い勇者様?」
う、と声を詰まらすフィリス。
確かにフィリスはそこに行ったこともない。ないが…。
動揺するフィリスに対して少女はがっしりと腕を掴む。
「だったら行こう。 私、魔法使いだから遠距離戦法はお手の物だし」
そう言い、少女はそのままフィリスを引き摺っていく。
「お…おい」
未だに動揺するフィリスに振り返り、少女はこういった。
「私、エアーっていうの。 よろしくね、えっと…」
「フィリスだ。 フィリス=ハーロァ」
「じゃあよろしく! フィリス。 行こう」
その言葉にやはり魔の神殿跡に行くのか、と考え 溜息をつく。
「仕方ないな…付き合うよ」
その言葉を待っていたのか、エアーはフィリスが見えない位置でガッツボーズをした。

変な出会いの後、エアーを連れて…否引っ張られてパロティの町を目指している。
だがその時はもう日差しがまぶしい時間帯ではなく夜の暗黒に包まれた世界と化していた。
まさかパロティの町というフィリスにとっては戻り道のようなものになろうとは考えてもいなかった。
空は暗黒の時を閉ざし…「ひゃあ」と急な冷たさを肩に感じ驚くエアー。
雨の中走っていくと、なんとか雨宿りが出来そうな所についた。

酒場。
それは人と人とが交流し合い、さまざまな情報を取り入れる生活の情報源の場。
フィリスとエアーは、びしょ濡れのまま中へと足を踏み入れる。
オーナーから、タオルをもらい必死に濡れた髪を拭く。
ふとエアーが「ねぇ」とフィリスに言う。
「何だ?」
「魔の神殿までここから何日かかるの?」
「まあ、ざっと2日だな」
「ええっ。 そんなにかかるの?」
「言っておくが、エリーティアからなら半日で行けれる」
「なんだ、フィリスの村の近所なんだ。 でもさ、なんで行かなかったの?」
「行かなかったんじゃない。 行けなかったんだ、道具不足で」
「でも魔力があれば大丈夫じゃない? ほらほら、基礎魔法使えるのなら」
「もし何かがあったら…魔力がなくなったらどうするんだ…」
「ああ…確かに」
「それで大都市ウィングまで頑張ってたのに…」
「徒歩で?」
「徒歩で」
その言葉に「え!!」とエアーは驚愕した。
「…フィリスってかなり意地張る方なの?」
「そうでもないけど」
と、ふと大男がフィリスに話し掛けてきた。
「おまえら、まさか魔の神殿跡に行くのか?」
「ああ…まぁ」
「やめとけ。 あそこには強力な結界が張ってあるらしい。 それも大魔法使いでも解けない代物だ」
「あれってデマじゃなかったの?」と、エアーが横入りしてきた。
「デマではないらしい。 だからあそこは立ち入れなくて冒険者は全員帰っていったって話だ」
「ふーん。 でも行って見たいなぁ」と、きらきらした瞳でフィリスを見るエアー。
「無理だといってもか…。 あの小僧みたいだな小娘」
「あの小僧?」
首をかしげるフィリス。
「ほらあの端っこに座っている黒いローブの」
そう言われ、フィリスは振り返り見てみる。
黒いローブとフードで覆われており、顔を見ることが出来ない。
「あいつも魔の神殿跡に行くんだとさ。 世の中わからないねぇ。 入れないって言っているのにな」
その話を聞いてエアーが「話し掛けてみる」と歩いていってしまったではないか。
「ま…待て。 あんな怪しい奴にそうやすやすと話を…」
するものではない、とフィリスが言う前にエアーは話し掛けていた。
「貴方も魔の神殿跡に行くの? 私たちも行くんだけれども一緒に行かない?」
「… …」
無言そして沈黙。ザァという雨の音だけが残る。
そしてローブの少年はその沈黙を破り、口を開いた。
「俺一人で良い」
「えぇ!? なんで!」
「お前たちには関係ない」
そう言いローブの少年は外に出てしまった。
呆然としているエアーに対して ぽん、とフィリスは肩を叩く。
「諦めろよ」
「でも!!」
「それに…」とフィリスは少年が出て行った酒場の扉を見つめた。
「今度は魔の神殿跡で会えるさ」
「そうかなぁ」
「一人で行くと言ってたんだ。 また会える、必ず」

*****

獣は何かを感じた。
突然いつも守っていた結界が消えたのである。
こんなことはこの地で生きてからなかったことだ。
獣は唸った。見れぬ敵に。見れぬ恐怖に。

*****

二日後。
フィリスとエアーは溜息をついた。
ぼろぼろになった村にも見える場所。
魔の神殿。かつては天空に浮かぶ魔族たちが暮らす神聖な神殿といわれており、その時はかなり綺麗な神殿だったという。
だが、『時の悲劇』が起こり、天空に浮かぶものは全て地上へと落ちた。その跡の一つがこれである。
フィリスはふと、結界の跡を発見した。
結界が施されていたのは真実だったようだ。
結界の跡を辿りながら歩いていくと、きらりと何かが光っている。
それをフィリスは拾いあげる。
「なに? どうしたの、それ」
「月と星が散らばれた…髪留めかな」
「へぇ…綺麗―」
刹那。
「誰だ。 それに触るな」
どこからか中性的な声が聞こえた。
そして瞬間移動したかのような素早い足腰で、フィリスが拾い上げた髪留めを奪った。
それは真っ赤な長い髪をしており、瞳はまるでガラスのような空色。
「ちょっと!!」
無理やり横やりして奪ったそれに対し、エアーは怒り声を出す。
フィリスは冷静にその少女のような者に対し、疑問に感じ「君は…?」と問いかけるが。
少女は「出て行け」と一言だけ捨てて、奥へと走って行ってしまった。
「追いかけよう! あの子、なんか怪しいし!」
エアーは、その少女を追いかけて走って行く。
それに溜息つきながら、フィリスは少々消極的ながらもエアーたちを追いかけた。

奥へ行くと、先程の少女が立ち尽くしていた。
目の前には立派な墓があり、少女は寂しそうな顔をしている。
誰かの墓だろうか…。フィリスがそう思った刹那。
少女は後ろを振り返った。
そしてフィリス達を獣のように睨みつける。
「なんで出て行かない…!」
そう言い、地面にあった石をフィリス目掛けて投げつけてきた。
「いて!」
それを見て怒り心頭のエアーは「ちょっと! あんたさっきから何すんのよ!」と叫ぶ。
「五月蝿い!」
少女はそう言うと素早く走って逃げて行ってしまった。
「何よ何よ! さっきから!! フィリス、やっぱりあいつ滅茶苦茶怪しいよ!」とエアーはフィリスに振り返り、言ったのだが。
当の本人はなにやら考え込んでいた。
「…フィリス?」
エアーに再度言われ、フィリスは顔を上げた。
「いや、なんでもない」
「兎に角あいつ追いかけようよ!」
「ああ、そうだな」とフィリスは言ったものの。正直、そんな気分にはなれないでいた。
少女は此処で住んでいる。ただ、それだけだ。恐らくはこちら側が招かざる客、といったところだろう。
だが…。
フィリスは振り返り、墓を見た。
その墓には名前が刻み込まれていた。
その名は…。

さわりさわりとその樹のようなものは動いていた。
否、自由に動くものだったものの筈なのだが、時が来たのか風に吹かれて動くだけのモノとなってしまった。
それに触れる少女がいる。
それを見たエアーは「ここにいたのね!」と叫ぶ。
少女は後ずさりして、その樹のようなものを庇うように両手を広げる。
「近づくな! グリーニアに触れるな!」
「へぇ…グリーニアって言うのね…」
じり、とエアーは一歩前に得意気に出る。
少女は冷汗を掻きながら一歩一歩後ずさる。
「やめておけよ、エアー。 これじゃあ、俺達のほうが悪人になる」
フィリスはそう言い、エアーと少女に近づいてくる。
「でもでも! こいつ、フィリスに石投げたりしたんだよ! 感謝の言葉もないし謝ったりしないし!」
「それでも、だ。 ここは俺に任せてくれ、エアー」
そう言われ、エアーは渋々下がることにした。
そして代わりにフィリスが前に出る。
「これ、グリーニアって言うんだね」
樹のようなもの―樹の形をした竜を見て、フィリスは優しく少女に言った。
「ああ…そうだ」
動揺しながらも少女は頷く。
「でも、もうグリーニアは死んでいるように見えるけどな…」
そう。先程から見ていてもグリーニアが動く気配を見せない。
まるで時を止めたかのように風に揺らめくだけのものになっているのだ。
「死んでいない! グリーニアは生きている! あいつと同じ事を言うな!」
「あいつ…?」
「そうだ。 あいつは此処に来て「グリーニアは死んでいる」と言って、立ち去ったんだ!」
少女の言う「あいつ」というのにエアーはぴんときた。
恐らくは、あの宿で出会った黒いフードを深く被った人物…。
それとは裏腹に少年と少女の話し合いは続く。
「それなら俺が回復魔法をかけてあげよう。 そうすれば生きているか死んでいるか分かるだろ?」
「駄目だ! グリーニアには一本も手を出させない!」
「だったら君はグリーニアの暖かみを感じるのかい?」
その言葉に少女は口を噤んだ。
「それも感じられないのなら…もう、グリーニアは…」
刹那、少女はがくりとその場に膝を落とす。
「駄目だ…。 でないと…私…私は…」
そう言うと、泣き出してしまった。
まるで幼い子供が一人ぼっちになり、泣くように…。
そんな少女に対し、エアーは不安そうに見つめた。
フィリスは、少女を慰めるかのように、ぽん と少女の手に触れる。
「一緒に…来る?」
突然の発言に少女は動揺する。
「もう一人ぼっちは嫌だろ?」
「…いいの? 私…お前に酷いことをしたのに」
「いいよ。 別にそれほど痛くなかったしね」
フィリスはそう言うと、にこりと微笑んだ。
エアーもほっとしたのか、にこりと微笑み、少女も少し笑った。
「そういえば、名前聞いてなかったね。 俺はフィリス=ハーロァ」
「私はエアーよ」
よろしくね、とエアーが微笑み、少女も微笑んだ。
「私はイシュ。 よろしく フィリス、エアー」


木々に覆いつくされた墓にはかつて居たであろう女神の名前が彫られていた。
ナティ=ストーキン。
それは創造主が始めてこの世界に君臨した時に創りし名前。


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